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中学日本一、湘南クラブの“文武両道” 慶応など進学校に合格するワケ(29.1.18)

 

スポニチアネックス 1/18(水)     

中学日本一、湘南クラブの“文武両道” 慶応など進学校に合格するワケ

佐藤事務局長の授業を熱心に聞く湘南クラブの選手たち

 

 

 勉学も野球も――。

 

昨年の中学のクラブチーム日本一を決めるジャイアンツカップで12年以来2度目の優勝を飾ったボーイズリーグの湘南クラブ(神奈川)は、文字通り「文武両道」を貫くチームだ。各学年約50人の大所帯で練習に打ち込みながら、週2回はコーチが先生役となり、塾での授業も受ける。プロのドラフト1位入団選手2人を輩出する一方で、選手は県内屈指の進学校、湘南や慶応にも合格する実績を持つ。ユニークなクラブ活動の秘密に迫った。 (川島 毅洋)


 異様な光景が広がっていた。丸刈り頭の「受験生」たちが、クラブ事務所の静かな一室で問題集とにらめっこ。冬休みの「冬期講習」の授業の一コマだった。学習塾さながらの雰囲気。講師役を務める佐藤健児事務局長兼コーチ(32)は「子供たちは野球と勉強、並行して伸びていく。嫌いな勉強に取り組むことで、野球でいえばきついトレーニングに耐えられるようになったり、相乗効果がある」と説明する。

 「湘南クラブ」は89年に野球も教える学習塾として設立された。立ち上げの中心になったのは田代栄次監督(39)の父・榮夫(さこお)さん(75)で「野球だけできても駄目。社会に出て困らないように勉強も教えようと思った」と当時を振り返る。1学年20人程度でスタートし、現在は3学年で160人を超える大組織になった。

 99年から指揮を執る田代監督は東海大相模、東海大でプレー。卒業後に、指導者になる道を選び、昨年はU―15侍ジャパンのコーチも務めた。「みんながプロ野球の世界に進むわけではない。社会に出て通用する人間を育てる」ことをモットーとしながら「やるからには勝つ」と文武両道に取り組ませる。12年にエース・小笠原(現中日)を中心に、中学のクラブチーム日本一を決めるジャイアンツカップで初優勝を飾ると、昨夏には2度目の全国制覇を成し遂げた。

 スタッフは10人体制。勉強と野球の指導にあたる画期的なシステムが構築されている。学習面では能力別に1学年が3クラスに分けられ、教科は英語、数学、国語、理科で授業は週2回。湘南や慶応など難関校に入学するOBも多い。県内の進学校を志望校にする西川拓真主将(3年)は「勉強と野球、両方やるのは結構大変だったけど、しっかり指導してもらった」と感謝する。

 事務所横には打撃練習ができるスペースがあり、整骨院も併設。スタッフとして働くOBもおり、故障防止に最善を尽くしている。試合ができる専用グラウンドは寒川町の河川敷にある。湘南クラブはAチームが「湘南ボーイズ」、Bチームが「茅ケ崎ボーイズ」として活動し、多くの選手にチャンスが与えられる。田代監督は「2チームならベンチに入れる子も増える。自分の経験から身についたものが一番の力になる」とライバル心をあおりながら大会には2チームがエントリーすることもある。

 「私は先を見据えて、というよりは、今が大切だと思っている。壁にぶつかったら、そこから逃げないことを教えたい。それは野球も勉強も同じです」と田代監督。勉強机に向き合うときも、グラウンドで真剣勝負するときも、湘南クラブの選手たちは、生き生きとした表情をしている。

 ▽中学野球の概要 硬式野球のクラブチームは、日本野球中学硬式野球協議会に属するリトルシニア、ボーイズリーグ、ポニーリーグ、ヤングリーグ、フレッシュリーグの5団体に分類される。地域によってチーム数は異なる。その他、中学校の軟式野球部でプレーする選手もいる。

 

 

プロで「軟式出身野手」も?軟式球変更で球界に影響は (29.1.11)

 

R25 から転載   1/11(水)    

プロで「軟式出身野手」も?軟式球変更で球界に影響は

新規格の軟式球(M号)。空気抵抗を減らすために工夫されたくぼみはハート型。女子に訴求したい、というメッセージも含まれてるという

 

 

WBC(ワールドベースボールクラシック)が近づくと、「ボールへの対応が…」という話題が持ちあがる球界。だが、ボールの対応に迫られるのはプロだけでないらしい。全日本軟式野球連盟と野球ボール工業会は12月1日、従来のA号(一般)、B号(中学生)、C号(学童)の3種類だった軟式球を、M号(=メジャー:中学生以上)、J号(=ジュニア:学童)の2種類に変更することを発表した。…といっても、それによって選手にはどんな影響があるのか? 中学軟式野球に詳しい野球ライターの大利 実氏に話を聞いた。

◎軟式出身野手の台頭が今後増える可能性も!?

発表で配られた資料には、「軟式野球100年の歴史を塗り替える」「革新的な“次世代ボール”」といった記述があり、軟式球を硬式球の使用感に近づけることが狙いだという。一番大きな変更点は、現状、弾み過ぎるという指摘が多い軟式球のバウンドの高さを抑制しつつ、表面のくぼみ面積を増やすことで空気抵抗を減らし、さらに圧縮荷重を上げて変形エネルギーを押さえたことにより飛距離をアップさせたこと。

「軟式野球と硬式野球は競技が違う、とまでいう人がいます。一番の違いは守備への対応。従来の軟式球では高いバウンドに対処するため腰高の守り方になり、高校で硬球の低くて速い打球に慣れるまでに時間がかかる傾向があります。実際、プロ野球選手が中学生時代に軟式、硬式どちらでプレーしていたかで比較すると、投手では軟式経験者が多いのに、内野手・外野手はシニアやボーイズなどの硬式経験者の方が圧倒的に多いデータがあります」

では、早くから硬式球に近いボールに触れることで守備意識が変化し、日本人メジャーリーガーの野手が成功しやすくなるようなことは…!?
「それはさすがに言いすぎだと思いますが、高校で硬式球に移行する上でのギャップが少なくなりますので、強豪校のスカウティングで軟式の野手を評価する向きが増えるかもしれません」

◎ダルビッシュのようなツーシーム投手がさらに増える!?

ボールの弾み方が変わる、という点から打撃や守備に目が行きがち。だが、投球においても変わりそうな点はあるという。

「今回の仕様変更では、小・中学生の体格の成長にあわせて従来よりも2mm大きく、3g重くなっています(B号とM号の比較)。これによって投げにくくなるのでは? という危惧もありましたが、実際に選手に使ってもらうと、『投げやすい』という声が多いです。というのも、縫い目の数が変わり、縫い目の形も硬球に近づけたことで、指にかかりやすくなったから。指によくかかるので、ツーシーム(打者の手元で沈むように変化する球種)系の変化球もより曲がるようになったといいます。また、球速も出やすいなど、投手の評判はすこぶるいいです」

ということは、メジャーのようにツーシーム全盛の野球が日本球界の若年層から起こるのかもしれない。

「マイナス面があるとすれば、表面のくぼみの面積が増えたことで、ちゃんと縫い目に指をかけなくてもそれなりの送球ができてしまうこと。野手に関しては、送球への意識がおざなりになってしまう懸念があります。また、手の小さな選手は投げにくくなりますので、故障の要因になるのでは? という懸念も一部ではあります」

◎「野球の国際化」がこれまで以上に進む可能性アリ

「今回の仕様変更には、軟式球をもっと広く使ってほしい、という狙いもあります」と大利氏。軟式球を使う国は現状、ほぼ日本だけだが、硬球球とのギャップが狭まることで海外展開がしやすくなる、という見立てだ。

「もともと硬式球よりも耐久性にすぐれ、コストも安い軟式球には潜在的な需要があるはず。アジアや中南米ではすでに使われていて、さらに普及する可能性はあり、軟式球が野球の国際化に一役買う可能性もあります」

軟式と硬式の差がなくなる、という意味では、高校や大学、社会人での軟式野球チームから、プロに進むケースが増えるかもしれない。

「軟式野球からプロに進んだ例としては、元広島の大野 豊さんを筆頭にほとんどが投手。今後は野手でも活躍するケースが増えれば面白いですよね。また、軟式→硬式の対応の図式だけでなく、硬式から軟式に戻るケースでも違和感なくプレーができるようになる、といったプラス面もありそうです」

今後、硬式経験者が草野球で「こんなはずじゃ…」と首をかしげるケースが減るかもしれない。ただ、新規格の軟式球導入は早くて2017年12月からとのこと。プレーに影響を与えるのはもうすこし先のことになりそうだ。

打者・大谷 飛躍の理由 「20センチのテークバック」と「軸足加重」

スポニチアネックス 2016年6月22日(水)    

 

 

大谷の打撃飛躍の鍵は「トップの変化」と「軸足加重」にあり――。投手として日本プロ野球最速の163キロを誇る日本ハム・大谷翔平投手(21)は入団4年目の今季、打者としても非凡な成長ぶりを見せる。そんな二刀流の打棒を、筑波大野球部監督で同大体育系の川村卓准教授(46)が分析。動作解析の結果、秘めたるポテンシャルが開花した過程が明らかになった。 (取材・鈴木 勝巳、柳原 直之)

 入団1年目との大きな違いは、フォームを解析した(2)の部分だ。トップの位置が捕手側に20センチほど引かれ、バックスイングが大きくなっている。「これによって身体の回転半径が大きくなり、スイング時の回転力も増しています」と川村准教授。この「回転力」に大谷の打撃の秘密がある。

 ここまで9本塁打のうち、実に8本が中堅から逆方向。全36安打のうちでも、右方向に引っ張ったものは3分の1の12本しかない。これを川村准教授は「メジャー級のバッティング」と呼ぶ。「回転力によって、外角球に対してもスイングスピードが落ちない。その結果、左方向への本塁打増につながっている」。いわゆる「流し打ち」と呼ばれる逆方向への打球は、ミートと軽打によって生み出される。そのため飛距離は出ない。対する大谷は、力を直接ボールにぶつけて逆方向に飛ばす、大リーガーと同じ打ち方だという。

 「多少振り遅れても、回転力とウエートがある。だから打球が飛ぶのです」と川村准教授。大谷は今季、肉体改造に取り組み、一時は102キロまで体重を増やした。昨季までは細身の体が「スイングに負けて浮き上がるような形になっていた」が、体重増で下半身が安定。これにより、体幹の回転を最大限に生かしたスイングが可能になった。

 13年に比べて、肩―腰にかけての「ねじり」が大きくなったのもポイントだ。この「ねじり」が大きいほど、下半身の力を上半身に伝えてスイングスピードが速くなり、かつ体幹の力を爆発させることができるという。

 変化はまだある。(3)のように、かつての大谷は後ろの足(左足)がインパクトの際に動くフォームだった。今季は軸足である左足に体重が残り、「腰の回転を強調した、リアレッグ(後ろ足)スタイルの打撃に移行している」。これは元ヤンキースの松井秀喜ら、長距離打者に多く見られる特徴。「下半身の筋力増、体重増によって可能になったスタイル。大谷選手は確実にホームラン打者へと進化している」と結論づけた。

 (6)のフィニッシュに関しても、13年は右足に体重が移動して下からあおるようなスイングになっているのに対し、今季は「腰の回転がしっかりしているので、レベルスイングができている」。他の打者より少ない打撃機会の中でも、大谷は大きな成長を遂げている。投げては最速163キロ。それでも「当初から打者の方に魅力を感じていた」という同准教授は、「メジャーで中軸を打つ打者はなかなか出てこない。大谷選手は、松井選手以来の大リーグでクリーンアップを打てる逸材」と力を込めた。

 

 

天才中学生を狙え!激化する甲子園常連校「スーパー青田買い」の実態 彼らの未来は14歳で決まる

2016.5.9  現代ビジネスから転載

 

 

ランドセルをおろし、中学の鞄の生活に馴染んだ頃、天才少年たちは早くも決断のときを迎える。どの高校で野球を続けるのか。高校の監督、中学の指導者、親の間で繰り広げられるドラマを追う。

 

どうやって原石を見つけるか

 88回目を数えた今春の選抜高校野球は、奈良の強豪・智弁学園が初めて頂点に立った。智弁は先発した9人中、7人が中学で硬式野球を経験し、敗れた高松商業はわずか3人。胴上げの光景をテレビで見ていた、ある高校の監督は天を仰いだ。

 「選手を鍛えなければ強くならないのは今も昔も変わらない。でも、今は前提として、本当に素材のいい子を集めないと勝てない。昼までに授業を終わらせ、午後から練習をみっちりやればなんとか強いチームができる、という旧態依然の考え方では、もう選手に来てもらえない」

 ダイヤモンドの原石を高校で磨き、光れば、大学やプロ野球への道が開ける。それはひと昔前の話だ。今や中学段階でその後の人生が決まってしまうと言っても過言ではない。

 なぜそんな「スーパー青田買い」状態になってしまったのか。中学生を指導するシニアの関係者が明かす。

 「2007年の春に発覚した高校野球における特待生制度の問題です。授業料免除などの特典を与えられた高校生の存在が表面化しました。それは日本学生野球憲章で禁じられる行為なので、関わった人は当初厳罰に処されました。

 '09年に入学金、授業料のみ、免除が許される特待生制度が再びはじまりはしましたが、目安は各学年5人以下と大きく制限が加わりました。問題発覚前は多い学校では1学年10人いて、要は30人の中から優秀な9人を選べばよかったので、リクルートは今よりラクだったと思います。

 近年は少子化により、子供の数自体が減っているので、優秀な9人を選ぶ『分母』も減っている。だから、名門校ほど、欲しい選手を早く決めようと、動きが活発化しています」

 中日で投手、コーチとして活躍、2年前まで長きにわたって中日でスカウトをつとめ、現在は中学生を中心に指導する水谷啓昭氏が明かす。

 「最近は、プロ球団が主催する少年野球、中学の硬式大会に、高校の指導者が観にきている。そこで活躍した選手のその後を、きちんと追いかけています。だから、高校の指導者がいい選手を『見逃す』確率は少なくなっている。

 シニアやボーイズ出身の選手で全国レベルにある選手の実力は、拮抗している。選抜の大会前、投手では大阪桐蔭の高山(優希)選手や東邦の藤嶋(健人)選手が注目されましたが、私は智弁学園のエース村上くんが初戦の福井工大福井戦で投げている姿を見たときから『いいなあ』と思っていた。そうしたら本当に勝ちました。彼は低めのボールに伸びがあり、最後までフォームにばらつきがなかったからです。大会前の前評判は高くないのに、優勝投手になるのは珍しい例です。

 秀岳館のベスト4進出も、大会前から予想していました。大阪・枚方ボーイズ時代から、監督の鍛治舎巧さんに指導を受けた選手がレギュラーに6人もいた。主将の九鬼選手を筆頭に、各選手の下半身の太さ、打球の速さは、すごく鍛えこまれていると感じました」

 

 

大阪桐蔭・西谷監督の場合

 優勝した智弁学園を昨年10月、近畿大会準々決勝で下した大阪桐蔭は、選抜の優勝候補だったが、2回戦で木更津総合(千葉)に1-4で敗れた。智弁学園が優勝した数日後、大阪桐蔭の西谷浩一監督は早くも北海道に向かっていた。その動きをキャッチした関西のシニア関係者が明かす。

 「西谷さんは本当にマメです。シニアの優秀な選手は地元・大阪にもたくさんいます。でも、西谷さんは関係者を通じて、北海道にもいい選手がいる、という情報を得たようです。大阪桐蔭が選抜で敗れた直後、同時期に大阪で行われていたシニアの選抜大会の会場に姿を見せ、そこで北海道のチームもすでに視察していました。それに満足することなく、数日後に、北海道に向かったのです。

 直接見にいけば、どんな選手がいるかの現状を把握ができるし、来年以降の人材発掘の材料になる。名前も顔も全国的に売れている監督みずからが選手を見に来た、となれば、選手の抱く感情はもちろん変わってきますから」

 西谷監督は、そのマメな行動力で、この春、「スーパー中学生」と言われた逸材の入学も実現させた。飛騨高山ボーイズ出身で、今年高校1年生になったばかりの右腕・根尾昴投手は昨年、中学生にもかかわらず、MAX146キロを投げる剛腕として脚光を浴び、高校の進路も注目されていた。アマチュア野球担当記者が明かす。

 「根尾投手は彼の父親がお医者さんなので、神奈川の名門・慶応高に進学する選択肢もあったようです。『医者になるなら慶応、プロを目指すなら大阪桐蔭』と周囲も注目していましたが、根尾君は結果的に大阪桐蔭を選択しました。

 大阪から飛騨高山まで行くのは、神奈川から行くのと比べても大変です。それでも西谷さんは授業や練習の合間を縫って、何度も足を運んだそうです。その情熱が、根尾君本人に伝わったのです」

 根尾投手と同じ学年で「スーパー中学生」と言われた川崎中央シニア出身の小野寺瑞生投手は速球のMAX143キロ。こちらも本格派右腕だ。投球だけでなく、横浜スタジアムにもスタンドインできる打者としての能力も光り、184cm、94kgと体格も恵まれている。昨夏、甲子園を沸かせた早稲田実業・清宮幸太郎をほうふつとさせ、次代の二刀流候補と取りざたされている。スポーツライターが明かす。

 「大阪桐蔭や東海大相模、日大三高など名門校の監督がこぞって視察に訪れましたが、東海大甲府への進学を決めました。付属なので、大学まで野球を続けられる環境ですし、東海大甲府の村中秀人監督は、実力さえあれば、1年生のときから起用しながら選手を育てるのが上手。その方針にもひかれたようです」

 

 

 

シニアと高校の密な関係
 小野寺の場合、自ら思い切った決断を下したことにより、才能が開花する道が一気に開かれた。小野寺が高校入学前に所属した、川崎中央シニアの澤田健一監督が明かす。

 「そもそも彼が川崎中央シニアに来たのは中学2年の秋です。それまで別のチームにいて、たまたま練習試合で対戦したことがありました。そのとき、川崎中央が、(小野寺)瑞生を打ちまくった。彼を打ちこんだ選手の中に、小学生時代の仲間がいたことにも刺激を受けたようです。

 チームを移ることは簡単ではない。しかし、川崎中央は当時、週末に専用で使える練習場を持っていたので、彼自身がよりよい練習環境を求めて、前のチームを円満に退部し、自分からウチのチームを選んでくれました。

 昨年3月、DeNAが主催するベイスターズ杯で試合に出たのが、瑞生のウチでの実質的なデビュー戦でしたが、そこで彼は横浜スタジアムで2打席連続のホームランを放ち、一躍、注目される存在になった。川崎中央を選んだことで、偶然ですが、注目してもらえる道筋ができた。彼にとってはよかったのだと思います」

 根尾も小野寺も、中学生の段階で、高校生も驚く力を発揮する。昔に比べて中学生の体の発達が早く、正しいトレーニング理論も浸透しているため、故障でつぶれるケースも少ない。シニアで実力のある子は、高校入学直後に即戦力になれることが、名門高校の「争奪戦」を加速させている。

 昨夏の甲子園で頂点に立った名門・東海大相模も大阪桐蔭と同じく、実績に驕らず、人材発掘を続ける。神奈川県内のシニア関係者が明かす。

 「東海大相模は全国にいるOBが現場に情報を提供するシステムができあがっていると感じます。昨夏、エースの左腕・小笠原慎之介投手(現・中日)と二枚看板で奮闘し、全国制覇に貢献した吉田凌投手(現・オリックス)も、出身は兵庫県西脇市です。同じ関西の大阪桐蔭も注目していた選手が越境して入学したことが、全国制覇には欠かせなかったと思います」

 大阪桐蔭、東海大相模のように最近輝かしい戦績を挙げてはいなくても、甲子園をめざす学校は選手発掘のため、地道なロビー活動を続ける。スポーツ紙の野球担当記者が明かす。

 「シニアでは、自分たちと交流のある他チームや、高校の関係者を交えた会合を定期的に開催しています。その会合が都内で開催されたとき、長野の古豪や、関西の名門校の指導者の方も、わざわざ見えるんです。

 名刺交換をしながら『ウチではどんな練習をしているか』『どのポジションに人材が欲しいか』という情報交換をして、シニア、高校の指導者同士が懇親を深めるのです。

 ただその会合に参加したからといって、すぐにシニアのチームからいい選手を紹介してもらえるわけではない。最初はシニアチームの要望に応じて3~4番手の選手を迎え入れて、その選手を鍛える。

 そして地方大会の上位、甲子園出場を実現すると、今度は主力級の選手を紹介してくれるようになり、ますます強いチームになる好循環が生まれます。浦和学院や関東一高、帝京高といった学校は、そうした活動を地道に続け、安定した力を維持しているのです」

 甲子園出場を現実的な目標としてとらえられる中学球児は、早ければ中学2年生の段階で、人生の岐路を迎える。今春の選抜高校野球で甲子園に出場した選手の父親(53歳)が明かす。

 「息子2人が甲子園をめざしてきましたが、今回は弟が選抜に出ることができました。上の子は一度も甲子園に出られませんでした。ただ、その教訓が、結果的に弟に生かされました。それはシニアの選び方です。

 チームの野球スタイルはその子にあっているか。進路の相談に親身になって乗ってくれるか。通常、公式戦が終了する3年生の夏まで、どの学校から誘われているか、シニアから教えてもらえませんが、ウチの子は中2の段階で3校誘いがきたそうなので、シニアの監督の配慮で、考える時間をいただきました。

 そこからは情報戦でした。同級生の有力選手がどの高校を希望しているのか。優秀な先輩がどの学校に進学したか。今は子供同士のLINEのつながり、専用のサイトですべて画面上で把握できてしまう。でも、最終的にウチは『縁』を大事にしました。最初に声をかけていただき、監督さんが観に来た試合で、息子がたまたま活躍した。甲子園で息子の姿を見たときはジーンときました。

 弟が甲子園に行けたのは、上の子が甲子園に行けず、厳しさを痛感したからです。ただ一生懸命やるだけでは目標に到達できない。甲子園出場、という目標を達成するために、ゴールから逆算して考える大切さを学びました。だから弟は、上の子とは違うシニアを選んだのです」

 

イチかバチかの賭け

 一方、同じく甲子園を目指してこの春に高校に入学したばかりで厳しい決断を迫られる生徒もいる。その父親(49歳)が複雑な心境を吐露した。

 「甲子園優勝経験を持つ近畿圏の名門高校を志望しましたが、そこまでの実力はなく、関東の他の強豪校に推薦で入学しました。しかし入学直後にけがをしてしまった。そのことを学校で責められたことにショックを受けたのか今、息子は悩んでいて、学校を休んでいます。万が一、野球部を辞めたら、学校も辞めないといけないでしょう。

 私は、決して野球部や学校が悪いとは思っていません。めぐりあわせの悪さが重なり、歯車が狂ってしまった。学校選びは、イチかバチかの賭けみたいなところはあると痛感しています」

 ヤクルト・荒木大輔や日本ハム・武田一浩などプロ野球で活躍したOBを多数輩出し、早実・清宮も指導した、調布シニアの安羅岡一樹監督が明かす。

 「好きではじめた野球ですから、できればみんな花開いてほしい。でも、実際は野球だけで生活できる人は数えるほどしかいない。ですから、私は野球をやめて社会人になったときに困らないよう、人への思いやりやチームワークとは何かを学んでほしい、と考えてずっと指導してきました。

 それは清宮に対しても変わりません。バッティングに関して口を挟んだことはほとんどありませんが、団体行動を乱すような行動をとったときは、厳しく叱りました。彼は中2の冬から半年間、腰を痛めて野球ができない期間がありました。

 実力的にはズバ抜けていたけど、グラウンド以外の場所でリハビリをすることは許さなかった。グラウンド脇でリハビリに励み、その姿を仲間がどう見ているか。言葉を交わさないやりとりが、信頼感、チームワークにつながる。彼には、そのことを一番、感じてほしかったんです」

 まだ少年なのにプロ並みの球を投げ、快音を飛ばす「怪物の卵」たち。聖地・甲子園で高校球児がつむぐ物語は、人生を賭けて白球を追う中学生世代に、ヒントが隠されている。

 「週刊現代」2016年5月7日・14日合併号より

 

 

★ピューマーズ卒業生が甲子園に出たら、みんな興奮しちゃいますね。

甲子園を目指すもよし、楽しく野球を続けるもよし、いろいろな“野球”との接し方がありますから、自分にあった接し方を見つけよう!